「PL脳」というのをご存知でしょうか?「PL脳」とは、朝倉裕介氏が「ファイナンス思考」という著書で提起した、「目先の売上や利益を最大化することを目的視する、短絡的な思考態度」のことを指し、「失われた30年」に代表される日本経済低迷の原因としています。
そして、著者は、この「PL脳」と対をなす言葉として、「ファイナンス思考」を併せて提起しています。(筆者は、この著書において、日本経済復活に向け、日本企業において「ファイナンス思考」の定着を目的としていると思われます。)
「ファイナンス思考」とは、以下の特徴があるとしています。
評価軸: 企業価値(将来にわたって生み出すキャッシュフローの総量)
時間軸: 長期、未来志向、自発的
経営アプローチ: 戦略的、逆算的
一方で、「PL脳」の特徴として以下を挙げています。
評価軸: PL上の数値(売上、利益)
時間軸: 四半期、年度など短期、他律的
経営アプローチ: 管理的、調整的
具体的な「PL脳」の弊害として、「(短期的な)売上至上主義」「(短期的な)利益至上主義」「キャッシュフローの軽視」「バリューの軽視」「短期主義」とし、それぞれを詳しく説明しています。そして、日本企業は、未だ「高度経済成長期の日本の勝ちパターン」の「呪縛」から解き放たれない状況が続いていると断じています。
さて、それではこの思考を、海外進出に当てはめてみます。
海外進出を「ファイナンス思考」で捉えると、既存事業部の一つのセクションとして取り組むというよりは、事業ポートフォリオの一つとして位置付けるという発想になるのではないでしょうか。そして、その結果として、既存事業の短期的なPLの数値の向上を目指すという呪縛から解き放たれ、海外の新事業を軌道に乗せること、そして「花形(Star)」事業化が目的に。そうなると、例えば、ブランディングのような取り組みが可能となります。
ブランディングとは
ブランディングは、単に一つの施策ではなく、各施策横断的に一貫してメッセージを発信することにより、製品や企業の価値をあげ、結果としてより高い金額で販売できる取り組みといえます。これが、ブランディングが、「投資」と言われる所以です。
ブランディング活動により構築された「ブランド価値」の算定にあたっては、例えば、同じスペックの商品(例えば、自動車)に、あるブランドのバッジをつけることで、消費者がいくらで購入したいかということを測る調査があります。例えば、メルセデスであれば+100万円、トヨタであれば+50万円、C社であればマイナス10万円などと消費者が評価するとすると、この差額がいわゆるブランドの価値として算定することができます。
このブランディングについては、当然のことながら一朝一夕に出来ることではありません。これは、経験ある専門家のノウハウやコンサルテーションを受けながら、綿密に設計・実行され、そして継続的に取り組まなくてはなりません。さらに、このブランディングの視点が持てるようになれば、「目先の利益を得たいが故に、安易にTikTokやインフルエンサーマーケティングという施策を行う」という発想がなくなり、ブランド価値に対して影響を与えかねない施策に対する目利きができるようになるのではないでしょうか。
安易な施策提案が横行する海外進出支援
さて、「PL脳」を逆手に取った施策提案が横行しているのが、海外進出支援と言えます。例えば、既存製品の新市場への導入であれば、定性調査により、市場受容性などを確認したり、仮説の抽出やターゲット層の理解(ある行動の背景、価値観な)を行います。ある意味、文化背景が異なる海外への進出には必須とも言える調査です。
一方、定量調査は、仮説検証や傾向把握、対象市場のボリュームを測定したりするのに用いられます。日本では、メディアが「政権の支持率」の調査で使っているので、一般的に調査といえば定量調査と思う人も多いようです。
しかし、文化背景などの異なる海外において、定性調査抜きで、いきなり定量調査を行うというのは乱暴ともいえますが、ニュースでの政権支持率の調査があまりに浸透している状況を利用して、あたかも定量調査を行えば市場を理解できるというサービスの売り込み方がされているのが現実です。市場理解をミスリードしかねない危険なサービスとも捉えかねられません。
また、例えばSNSマーケティングなどと言い、あたかもマーケティングがそれで完結しているかのような物言いで、サービス提供しているケースもありますが、それは本来であれば「施策」の一つに過ぎません。本来は、予算の額に関わらず、しっかりとした戦略を策定し、全体的なキャンペーンなりを設計した上で、戦略上の「ある目的」を達成する上でインフルエンサーを起用するなどの「施策」に落とし込みます。ですから、インフルエンサー起用を目的にし、その戦略から策定するサービスというものは本末転倒と言わざるを得ません。
つまり、上位概念である「戦略」や「マーケティング」という言葉を、単に一つの「施策」でしかない取り組みに絶妙に織り込み、例えば「弊社は、○○マーケティングの戦略立案から代行します」というように使用することで、あたかもその「施策」が万能であるかのような見せ方をしているケースがあるということです。
これら全て、多くの日本企業が陥っている「短期的に成果を上げたい」という気持ちを上手に汲み取ったサービスであり、海外進出を「長期的に、永続的に」支援するという視点に欠けているという点で共通しているのではないでしょうか。
今こそ「ファイナンス思考」を持った海外進出を!
多くの日系企業が陥っている「PL脳」的アプローチで、実際に大手企業もインドネシアからの撤退を余儀なくされているというのも事実です。それは、短期的アプローチにより「成果」が思ったほど出ず、短期的判断により、傷が浅いうちに「撤退」するケースが挙げられます。また、少し複雑ですが、この「PL脳」を含む日本的アプローチを押し付けたり、あるいは日本人だけでやろうとして(パートナーの逆鱗に触れ)失敗し、撤退したケースもあります。
本来、止まらない少子高齢化が進む日本から海外に進出するのであれば、絶対成功しなければなりません。それには、短期的視点で安易な施策ではなく、長期的視点から腰を落ち着けて戦略的に進めなくてはならないのではないでしょうか。
戦略的インドネシア進出なら弊社へ
弊社マークスインターナショナル合同会社は、短期的成果を求める「施策」を、最初からご提案はいたしません。長期的な視点から、ブランディングや流通対策を視野に入れ、上位概念である「戦略」からご提案いたします。
弊社には、「永続的に事業を継続しつつ、投資額を上回るリターン回収」を目標に、インドネシアを含む海外における新製品のローンチを成功に導いてきたノウハウや実績がございます。インドネシアはもちろん、海外進出でお困りのことなどございましたら、是非一度ご連絡いただければと存じます。
(参考資料)
「ファイナンス思考」(朝倉裕介、ダイヤモンド社、2018年)
「コンサルが『最初の3年間』で学ぶコト」(高松智史、ソシム株式会社、2023年)
「Twitter is Not a Strategy: Rediscovering the Art of Brand Marketing」(Tom Doctoroff、Palgrave Macmillan、2014)