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インドネシアの市場調査も。変化した定量調査の常識


インドネシアの市場調査

はじめに:あなたのインドネシアの市場調査は、本当に現実を映しているか?

「性別・年齢・年収・居住地」──かつて、マーケティング調査においてこれらのデモグラフィック情報(デモグラフィック属性)は、ターゲットを明確にするための必須条件とされてきました。多くの企業が、定量調査等を通じて「デモグラごとの傾向」を分析し、それを商品開発や広告戦略開発に活用してきました。


しかし、現実の市場ではそのアプローチが機能しないことが指摘されてきています。なぜなら、市場はデモグラフィックでは理解できない、つまり、消費行動を左右するのは「誰か」ではなく、「その瞬間、何が起こっているか」だからです。これは、インドネシアの市場調査の際にも、意識しておかなければなりません。


バイロン・シャープ博士が突きつけた事実:ブランドは広く、浅く買われる

世界的に注目されるマーケティングサイエンティスト、バイロン・シャープ博士は、その著書『How Brands Grow』の中で、


「ブランドはロイヤル顧客ではなく、ライトユーザーによって成長する」

と述べています。そして、そのライトユーザーは、特定のデモグラに偏っているわけではありません。購買行動の大半は、"誰"が買ったかではなく、"いつ・どこで・なぜ"買ったかという状況によって決まっているのです。


さらにシャープ博士は、「ブランドは差別化ではなく“記憶され、物理的に手に取れる”状態(Mental & Physical Availability)を作ることで成長する」と主張します。つまり、購買はもっと確率論的かつ日常的な行動であり、デモグラに頼った調査ではその本質が見えてきません。


森岡毅氏の数式:売上は「好意度 × 認知度 × 配荷率」で決まる

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のV字回復を成し遂げた、株式会社刀の森岡毅氏も、著書の中で次のように述べています:


売上=好意度 × 認知度 × 配荷率

ここで注意したいのは、森岡氏の言う「好意度」や「認知度」は単なる態度や心理的傾向として測るものではなく、購買行動に明確に関係する“動かすべき変数”として定義されているという点です。好意度が高いほど購入されやすく、認知度が高ければ検討されやすく、配荷率が高ければ購入可能性が高まります。


つまり、これらの変数は「構造を把握し、戦略的に変数を動かす」ことを前提とした設計指標であり、従来のデモグラフィックやサイコグラフィックな属性中心のセグメント調査とは役割も精度も異なります。


静的な属性で切った調査からは、この構造は見えてきません。たとえば好意度の高低は属性では説明できず、配荷率(店頭にあるかどうか)や認知経路の可視化も不十分です。むしろ、購入に至る障壁の全体像を捉える調査設計こそが、今求められています。


インドネシアの市場調査

なぜ属性調査はもはや限界なのか?

  1. 実際の顧客構成はブランド間で大差がない

    シャープ博士の研究によれば、ライフスタイルや価値観、心理変数で切っても、実際の購買傾向に有意な差は出にくいとされています。


  2. 態度(好き・嫌い)と行動(購入)は直結しない

    芹澤連氏(日本エビデンスベーストマーケティング研究機構/コレクシア)によれば、態度と行動の相関係数はわずか0.3前後。これは、属性から得られるデータと同様、行動予測には不十分ということを意味します。先ほどの森岡氏の主張と矛盾するようですが、芹澤氏は、「態度変容を積み上げれば売上につながる」という決定論的な世界観に警鐘を鳴らし、マーケティングはより確率論的な視座で捉えるべきであると主張しています。(ここで言う「態度」と森岡氏の「好意度」は意味合いが異なります。芹澤氏が問題視しているのは、態度変容=売上という短絡的な発想であり、森岡氏はそれを「変数のひとつ」として構造的に扱っています。)


  3. マーケティングは「変数を動かす設計」がすべて

    「誰に」ではなく、「どこで・なぜ買うか」「どの接点が機能していないか」など、構造の把握と改善のための設計が調査の目的になりつつあります。


STPは補助線──だが軸ではない

誤解されがちですが、今やSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)はあくまで思考の補助線であって、実態そのものではありません。


本来のセグメンテーションとは、単なる「性別・年齢」ではなく、「ニーズ」や「使用文脈」「価値判断基準」で市場を切るものです。しかし多くの実務では、STPが属性フィルターとして機械的に運用されてきたため、「効かない調査」を量産する原因になっています。


インドネシアの市場調査

結論:調査の本質は、「構造を可視化すること」へ

定量調査は、「誰が買うか」と言った属性をベースにした測定ツールではなく、「なぜ買われないのか」「どこで行動が止まっているのか」を明らかにする戦略設計のツールであるべきだというのが、現在のマーケティングの常識となって来ているのです。


弊社では、インドネシアをはじめとする成長市場において、従来の属性依存型調査に代わる、構造把握型の調査設計と戦略構築をご支援しています。

「属性で切る」から「構造を読む」へ。 現実に即したマーケティングを、一緒に創っていきませんか?



参考文献
  • Byron Sharp “How Brands Grow”, Oxford University Press, 2010
  • 森岡 毅『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』角川書店、2016
  • 芹澤 連「コトラー派の盲点 なぜブランドはSTPで成長しないのか?」日経クロストレンド、2025年1月15日
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