プラボウォ大統領の「歳出削減」── その本当の狙いとは?
- Exclusive writer
- 4月11日
- 読了時間: 3分
更新日:4月12日

一見「庶民のための節約」だが──
インドネシアのプラボウォ大統領の「歳出削減」は、2025年度予算において約306兆ルピア(約3兆円)にも及び、大きな話題を呼びました。
式典、セミナー、出張旅費、筆記用具に至るまで徹底的に削減され、なかには「出張は数年行かなくても業務に支障はない」といった発言も飛び出すほど。無駄遣いを厳しく戒める姿勢に、庶民の間では「本気だ」という印象が広がっています。
その背景にあるのは、無償の栄養給食や貧困層向け住宅、学校の修復といった国民生活を直接支えるプログラムへの予算確保だと説明されています。1)
しかし、本当にそれだけでしょうか?

削減の裏で、「守られた領域」がある
注目すべきは、「すべての分野が平等に削減されたわけではない」という点です。
防衛予算(兵器調達や装備近代化)には手を付けず、むしろ拡大路線 2) 3)
国家警察や検察庁など法執行機関も予算削減の対象外 4)
新首都建設予算の執行が事実上停止している一方で、再開を明言する発言も 5)
このことは、単に「庶民のための財政再建」では語り尽くせない、政治的な布石の存在を示唆しています。

インテリジェンス分析:3つの隠れた狙い
弊社では、今回の動きを以下のように読み解いています:
① 「敵をつくらない改革」=政権維持の布石
歳出削減の矛先は、抵抗の少ない「公務員の浪費」や「形式的な行事」に集中。一方で、防衛や法執行といった体制維持に不可欠な機関には手を出さないことで、政権への忠誠を保つ構造ができています。
② 「外資の視線」を意識した
インドネシアにとって、今は海外からの投資を呼び込むことが非常に重要な時期です。そのため、「無駄な支出を徹底的に削減する」という政府の姿勢は、クリーンで効率的な国家運営をアピールする手段として、投資家にとって好ましい印象を与える側面があります。6)
しかしその一方で、プラボウォ大統領は「数年間外国出張に行かなくても支障はない」とまで発言し、対外関係を築くための海外出張費も大幅に削減対象としています。これは外国企業や政府との信頼構築の機会を自ら狭める結果になりかねず、矛盾したメッセージとして映る可能性もあるでしょう。
このように、今回の歳出削減は「無駄を削って国民に再配分する」という分かりやすい構図の裏で、国際的なプレゼンスや関係強化とのバランスに課題を抱えた政策であるとも言えなくもありません。
③ 「再選シナリオ」の布石
すでにプラボウォ大統領は2029年の再選に意欲を示しており、今回の歳出削減は、“成果の見える政策”を集中投下するための予算操作とも見て取れます。 7)
短期で効果が表れる施策(給食、住宅、教育)を打ち出すことで、次期選挙に向けた「実績作り」が加速しています。
「見える情報」のその先へ
インドネシアの政治や政策を、日本のメディアだけで読み解くのは難しいものです。例えば、今回のように新聞やニュースサイトに「庶民のための節約」と書かれていても、その背後には政権維持、外資誘致、次期選挙といった多層的なロジックが潜んでいる場合があります。
弊社では、こうした「見える情報のその先」を読み解くことに注力し、クライアントの皆様にインドネシアでの意思決定を支えるインテリジェンスを提供しています。
出典)
1) 5) 7) 『インドネシア通信 No.5685(月刊インドネシア2025年4月号)』(発行:月刊インドネシア編集部)
2)「Menhan Prabowo: Pasti Akan Tambah Anggaran Pertahanan」(Kompas.com, 2024年11月25日)
3) 「Prabowo Ingin Hemat Anggaran, Kemenhan Jamin Belanja Alutsista Tidak Dipangkas」(Kompas.id)
4)「Efisiensi Anggaran Tak Sentuh Instansi Penegak Hukum, Mengapa?」(Kompas.id, 2025年2月3日)
6)「Pemerintah Lakukan Efisiensi Anggaran, Apa Dampaknya bagi Masyarakat?」(Kompas.com, 2025年2月11日)