【進出検討中なら必読】インドネシアの外資規制緩和を読み解く
- Exclusive writer
- 1月24日
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―外資系会社設立のための最低払込資本金額を引き下げなければならない理由とは

2025年10月、インドネシア政府は外国企業(PMA)設立時の最低払込資本金をこれまでの100億ルピアから25億ルピアへと大幅に引き下げた。これを「進出の絶好機」と喧伝し、日本企業を誘い込むコンサルタントが散見される。だが、その言説は無責任と言わざるを得ない。今回の規制緩和の背景には、インドネシアへの外資参入の鈍化に対する政権の焦燥感と、国内に渦巻く深刻な構造的リスクが隠されているからだ 。
序) 一見すると「歴史的緩和」に見える新規則
2025年10月に施行されたBKPM規則2025年第5号は、インドネシアにおいて外資企業の設立を検討している企業にとって大いにメリットとなる「緩和」含んでいる。主なポイントは、以下の3点にまとめられる。
初期コストの劇的圧縮: 払込資本金の最低額が100億ルピアから25億ルピアへと4分の1に引き下げられた。
多拠点展開の容易化: 飲食やサービス業の投資計算単位が広域化(市・県単位)され、ドミナント出店がしやすくなった。
許認可の迅速化: 行政が応答しない場合に承認とみなす「正の推定」が導入された。
これらは、中堅・スタートアップ企業の参入を促す画期的な措置に見える。だが、この「緩和」を理由にインドネシア進出を考えるならば、まずやるべきことは、現在のインドネシアビジネスが置かれている状況を慎重に考えなければならない。
1. 「入口」の安さに隠された「投資ノルマ」の罠
今回の改正は、あくまで外資企業設立時に準備すべき「手元現金」のハードルを下げたに過ぎない。いわば「朝三暮四」の懸念を拭えない内容だ。
維持された投資総額100億ルピア: 最終的に100億ルピア(約9,000万円)以上の投資を実行しなければならない義務は依然として残っている。
変わらぬ事業リスク: 初期コストは抑えられるが、最終的な資金拠出義務に加え、死屍累々のインドネシア市場の攻略の難度、そして、(考えたくはないが)万が一の撤退時の清算プロセスを考慮すれば、当然のことながら、新たに始めようとしているインドネシア事業全体の難しさ、そのものが軽減されたわけではない。
2. カントリーリスクとしての統治機構:ガバナンスの崩壊

ここで、現在のプラボウォ政権下での統治機構について見てみたい。2024年の大統領選挙時には、プラボウォは前政権のジョコ・ウィドド大統領の方針を踏襲すると言っていた。しかし実際大統領就任から1年が経ち見えてきたプラボウォ政権の特殊性は、外資企業のみならずインドネシア国内企業や投資家にすでに顕在化したリスクとして認識され始められている。
「恐怖の文化」の蔓延: 政策に異論を唱えた高級官僚が汚職疑惑で逮捕・解任される事態が発生し、まともな政策提言が上がらない「仰せのまま(Asal Bapak Senang)」の空気が支配している 。
「裸の王様」化する大統領: 側近による厳格な情報統制(アクセス統制)により、不都合な世論や現場の不備が大統領に届かない状況にある 。
軍人派閥による利権化と非効率化: 旗艦政策である無償給食には退役軍人が投入され、特定の政治利権となっており、市場原理が働かない側面がある 。
3. カントリーリスクとしての社会の「時限爆弾」:Z世代の不満

統計上の経済成長率5%の裏で、社会の安定性は急速に失われている。現大統領が決定した議員に対する高給(具体的には住宅手当)に喜ぶSNSが引き金となった昨年8月のデモは、今後も起こりうる、予見できるリスクでもある。
支持率の急落: 信頼できるネット世論調査では、インフレ率が低下しているにも関わらず、政権支持率が1月の85%から9月には58%まで急落した 。これは、中間層の比率が下がっていることが原因とも言える。単純な成長率などマクロデータだけからは読み取れない事実である。
若年層の怒り: 人口ボーナス期を構成する若年層の失業率は17.3%と極めて高く、その本来のメリットを享受できていない。それどころか、彼らの中には、現大統領により特権を与えられるエリート層への静かな不満が充満している 。(インドネシアの多くの若者が公務員を志望する理由は、安定して政府からのメリットを受けられると信じているからである。)
暴動の激化: 2025年8月には、全国35州で200件以上のデモが発生し、戒厳令寸前の暴動に発展した 。その後、鎮圧はされたが、現在も何がきっかけで再燃するか分からないし、1998年時の暴動のようにならない保証はどこにもないのである。
4. 進出すべきは「緩和」に釣られる企業ではない
資本金のハードルが下がった今だからこそ、つまり政権が下げざるを得ない状況を理解した上で、真に進出するべき企業は「安く参入できるから」という理由でインドネシアを選ぶ企業ではなく、インドネシアが持つポテンシャルを、対等なパートナーとしてどう引き出すかという深い思慮と志の有無であると考えられる。
GXによる「価値の共創」へ :インドネシアは、例えば広大なカーボンクレジットの源泉となる天然資源を有し、世界の脱炭素戦略において欠かせない主役である 。かつてのように資源を安価に持ち出すだけの「搾取型ビジネス」は、資源ナショナリズムを掲げる現政権下ではもはや通用しない 。求められているのは、現地の豊かな自然資源を活かしながら、高度な技術で付加価値を付け、お互いの産業(日本にとってのサプライチェーン強靭化に資する産業やエネルギー分野などは、インドネシア産業にとっても多大な利益をもたらすと考えられる)に貢献できるパートナーシップであろう。
人的資本の「グローバルな循環」へ :インドネシアの最大の宝は、活力溢れたZ世代の人材である 。これからの人材ビジネスに求められるのは、例えば、日本での就業を「送りっぱなし」に終わらせない仕組みだ。日本で最先端のスキルや知見を習得させ、それを将来的にインドネシア自国の発展に還元させる「人的資本の循環」を描ける企業こそが、この国で持続可能な成功を収めることができるのではないか。
結論:コンサルタントの「誠実さ」を問う
これまで見てきたような最低払込資本金の引き下げは、外資の現金を呼び込むための「撒き餌」であり、悪い言い方をすると「朝三暮四」でしかない。これは、最近インドネシア進出を検討し始めた企業がすぐに把握できるとは考えない。つまり、進出支援を行うコンサルティング会社の責任であると考える。彼らが真に誠実なパートナーであれば、この「朝三暮四」を正しく伝えるべきであり、安さのみを訴求し進出を安易に煽るべきではない。インドネシアがいまだに攻略が簡単な市場ではないことに変わりはないのである。(了)
